「求人を出しても応募がない」「面接を設定しても辞退される」「採用できても定着しない」。建設会社の採用課題は、求人媒体を変えるだけでは解決しないことがあります。

採用力とは、知名度や採用予算の大きさだけではありません。必要な人材を決め、会社の仕事を正確に伝え、候補者と接点を作り、選考し、入社後に戦力化するまでの総合力です。中小建設会社でも、弱い工程を特定して一つずつ整えれば改善できます。

この記事では、建設会社の採用力を高める方法を、厚生労働省・国土交通省の公的資料と、株式会社Structive代表・竹井義和の採用支援経験を基に整理します。自社の現在地を数字で診断する方法、7つの実践策、90日で改善を進める順序まで具体的に解説します。

建設会社の採用力とは5つの要素をつなぐ力

建設会社の採用力は、単に応募を集める力ではありません。次の5つの要素を一続きで機能させる力です。

  1. 採用設計:事業に必要な役割、人数、時期、人物像を決める
  2. 魅力発信:仕事、現場、人、教育、待遇を具体的に伝える
  3. 接点づくり:採りたい人に合う募集経路を選ぶ
  4. 選考体験:速く誠実に対応し、双方の認識ずれを減らす
  5. 受け入れ・定着:入社後の教育と対話を仕組みにする
建設会社の採用力を採用設計、魅力発信、接点づくり、選考体験、受け入れ定着の5要素で示した図

例えば、求人の閲覧数が多くても、仕事内容が抽象的なら応募につながりません。応募が来ても、連絡が遅ければ面接前に辞退されます。内定承諾まで進んでも、初日の受け入れが曖昧なら早期離職につながります。

つまり、応募数だけを見ても採用力の状態は分かりません。候補者が会社を知ってから、入社後に仕事を続けるまでを分解して確認することが出発点です。

Structive代表の竹井は、採用支援で重視していることを次のように話しています。

「社長が抱えているモヤモヤを言語化し、問題を一つずつ課題に落とし込んで、少しずつ前へ進めていくことに価値があると思っています」

採用力を高める第一歩は、施策を増やすことではありません。「何が問題か分からない」という状態を、確認できる課題へ変えることです。採用支援が必要になる背景は、なぜ建設業に採用支援が必要なのかでも詳しく解説しています。

まず採用ファネルを数字で診断する

改善前に、直近1年間の採用活動を「求人閲覧」「応募」「面接」「内定」「入社」「定着」へ分けます。採用管理システムがなくても、求人媒体の管理画面、メール、面接予定表、入社記録から確認できます。

求人閲覧から応募、面接、内定、入社、90日定着までの採用ファネルと確認指標を示した図

最低限確認したい7つの数字

指標 計算・確認方法 数字が弱いときに確認すること
求人閲覧数 媒体・採用ページの閲覧数 検索される職種名、勤務地、露出経路
応募率 応募数 ÷ 求人閲覧数 仕事内容、条件、写真、応募のしやすさ
面接設定率 面接設定数 ÷ 応募数 初回連絡までの時間、日程の選択肢
面接参加率 面接参加数 ÷ 面接設定数 前日の確認、場所・持ち物の案内
内定率 内定数 ÷ 面接参加数 人物要件、面接基準、候補者との適合
内定承諾率 承諾数 ÷ 内定数 仕事内容の理解、条件、意思決定の速さ
90日定着率 入社90日後の在籍数 ÷ 入社数 初日受入れ、教育担当、定期面談

応募がゼロなら、求人の露出だけでなく、求人を見た人が応募しなかった理由も確認します。閲覧数が少なければ接点の問題、閲覧されているのに応募がなければ情報や条件の問題というように、打ち手が変わります。

面接辞退が多い場合は、応募者の質だけを原因にしないでください。初回連絡に何日かかったか、面接候補日を複数提示したか、面接前に仕事内容を理解できる情報を送ったかを確認します。

この段階で行うことは、7指標を1枚の表へまとめ、最も大きく候補者が減っている工程に印を付けることです。そこが最初の改善対象です。

建設会社の採用力を高める7つの実践策

採用力は、一度にすべて変えようとすると運用が止まります。診断で見つかった弱点に合わせ、次の7つから優先順位を決めてください。

1. 経営計画から採用する役割を決める

「現場が忙しいから人が欲しい」だけでは、採るべき人物は決まりません。今後受けたい工事、社内で不足している役割、既存社員の負担、退職予定を確認し、職種・人数・時期へ落とします。

人物要件は、次の3段階へ分けると現実的になります。

  • 必須:入社時点で必要な資格、経験、勤務条件
  • 歓迎:あれば活かせるが、入社後に育成できる能力
  • 対象外:安全や会社の価値観上、受け入れが難しい行動

例えば施工管理経験者を採る場合も、「施工管理経験3年以上」で終わらせません。工事種別、現場規模、元請・下請の経験、顧客対応、書類業務まで分けます。一方で、すべてを必須にすると候補者がほとんどいなくなるため、入社後に教えられる項目を明確にします。

2. 求人情報を候補者が判断できる内容にする

「各種工事を担当」「アットホームな会社」「未経験歓迎」だけでは、入社後の姿を想像できません。候補者が応募前に知りたい情報を、具体的な事実で示します。

抽象的な表現 具体化する情報の例
各種現場を担当 主な工事、担当エリア、出張の有無、現場期間
未経験者を育成 初日に教える人、最初の仕事、独り立ちまでの目安
資格取得を支援 対象資格、費用負担、勉強時間、取得後の役割
頑張りを評価 評価時期、確認項目、昇給や役割変更の流れ
風通しが良い 朝礼、会議、面談、相談相手の具体的な仕組み

良い面だけを書くことも避けます。早朝集合、現場移動、屋外作業、繁忙期など、仕事の現実を説明してください。応募数だけを増やすより、認識違いを減らすほうが、面接と定着の質を高められます。

3. 待遇・働き方・キャリアを見える化する

公的資料を見ると、建設会社が採用条件と入社後の見通しを明確にする必要性が分かります。

確認項目 建設業の状況 採用活動で行うこと
建築・土木・測量技術者の有効求人倍率 5.58倍 候補者が比較できる条件と仕事を明示する
建設躯体工事従事者の有効求人倍率 8.56倍 待つだけでなく接点を複数設計する
55歳以上の就業者割合 36.7% 技能承継と若手育成の計画を示す
29歳以下の就業者割合 11.7% 教育担当とキャリアの見通しを伝える
若年技能労働者を「採用できていない」企業 約7割 求人掲載だけでなく受入れ体制まで見直す

出典:厚生労働省「建設雇用改善計画(第十一次)」、厚生労働省「令和7年度 建設業における雇用管理現状把握実態調査報告書の概要」、国土交通省「令和7年版 国土交通白書」(2026年8月24日確認)

給与額だけでなく、手当、賞与の考え方、休日、残業、移動時間、道具・制服、資格取得、評価時期を求人情報と面接でそろえて説明します。経験者には任せる現場と裁量、未経験者には教育の順序を示します。

4. 現場の一次情報で会社の魅力を伝える

採用ページや求人票には、会社案内の文章だけでなく、現場の一次情報を入れます。

  • 現場社員の一日の流れ
  • 入社前に不安だったことと、入社後に分かったこと
  • 使用する道具、車両、デジタル機器
  • 若手社員が最初に任された仕事
  • 社長や現場責任者が安全・品質で譲らないこと
  • 会社に合う人と、合わない人

写真は完成した建物だけでなく、人、作業環境、休憩所、教育場面を撮ります。古い写真を並べるのではなく、「この写真で候補者のどの疑問へ答えるか」を決めてください。

5. 採りたい人に合わせて募集経路を組み合わせる

すべての媒体へ同じ求人を出すのではなく、人物像に応じて接点を選びます。

採りたい人 主な接点の候補 伝える内容
若手・未経験者 学校、地域イベント、求人検索、SNS、採用サイト 教育担当、一日の流れ、資格、成長例
経験者・施工管理 人材紹介、専門媒体、スカウト、知人紹介 工事種別、裁量、待遇、現場体制
異業種経験者 求人検索、地域媒体、ハローワーク、社員紹介 活かせる経験、研修、最初の役割
地元で働きたい人 地域媒体、採用サイト、社員紹介、自治体の就職支援 現場範囲、転勤、地域での仕事

経路を増やすときは、担当者と更新頻度も決めます。更新できないSNSや、応募対応が遅れるほど多い媒体は逆効果です。3か月ごとに応募数だけでなく、面接、入社、定着まで経路別に比較します。

6. 応募から内定までの体験を整える

候補者は複数社を比較しています。応募後は原則として次の営業日までに一次連絡し、面接候補日を複数提示します。すぐ面接できない場合も、いつ連絡するかを伝えます。

面接では、会社側が質問する時間と同じくらい、候補者が判断するための説明と質問時間を確保します。面接担当者ごとの感覚だけで決めず、次の項目を共通化してください。

  • 担ってもらう役割と必須条件
  • 安全意識、報告、協働に関する質問
  • 会社から説明する仕事内容と条件
  • 候補者から受けた質問
  • 合否理由と次回連絡日

7. 入社初日から90日までの受け入れを決める

採用力は入社日で終わりません。初日に誰が迎えるか、道具や制服をいつ渡すか、最初の現場で誰が教えるかを事前に決めます。

入社後は、初日、1週間、30日、60日、90日の確認項目を用意します。本人だけでなく、教育担当と現場責任者からも状況を確認してください。「本人の根性がない」で終わらせず、募集時の説明、配属、教え方、仕事量に改善点がなかったかを振り返ります。

竹井は、人材紹介で最初に支援した求職者が入社3日で離職し、会社と求職者の双方へ不利益を生んだ経験から、採用決定だけを目的にしてはいけないと考えるようになりました。

「会社にとっても、求職者にとっても、何一ついいことがありませんでした。両方にマイナスを負わせてしまったと感じています」

次の採用までに、入社初日の予定表と90日間の育成項目を作ってください。これがなければ、求人を増やす前に受け入れ体制を整える必要があります。

採りたい人によって強化する場所は変わる

同じ建設会社でも、未経験者と経験者では必要な情報や選考が異なります。全員へ同じ訴求をせず、対象者が転職で何を判断するかを考えます。

若手・未経験者を採りたい場合

仕事内容を業界用語だけで説明しないことが重要です。一日の流れ、最初の3か月で覚えること、教育担当、資格取得の順序を示します。学校名や資格だけで絞りすぎず、安全意識、学ぶ姿勢、報告行動を面接で確認します。

応募前には、現場写真、若手社員の声、休日、勤務地を見つけやすくします。入社後は「見て覚える」だけにせず、教える項目と確認日を決めます。

経験者・施工管理を採りたい場合

経験者は「施工管理募集」という職種名だけでは判断できません。工事種別、請負形態、案件規模、担当範囲、現場数、書類支援、直行直帰、出張、使用システム、評価方法を具体化します。

面接では資格と年数だけでなく、経験した現場の役割、得意な工程、顧客や協力会社との調整、今後避けたい働き方を確認します。会社が任せたい仕事と本人の希望が一致するかを重視してください。

異業種経験者を採りたい場合

営業、製造、物流、設備保全などの経験が建設会社でどう活かせるかを示します。「未経験可」だけでなく、活かせる行動を具体化します。例えば顧客対応、工程管理、工具の扱い、安全確認、チーム作業です。

入社後に必要な専門知識を一覧化し、誰が教えるかを決めます。経験者と同じ速度を求めず、30日・60日・90日の到達目標を設定してください。

対象者別に求人原稿を分け、同じ写真と説明を使い回していないか確認することが、このセクションの実行項目です。

90日で採用力を改善するロードマップ

採用活動は、求人を1回書き換えて終わるものではありません。担当者が少ない会社ほど、90日を3段階に分けて進めると継続しやすくなります。

1日目から30日目で診断し、31日目から60日目で実装し、61日目から90日目で改善する採用力向上ロードマップ

1〜30日:現状を診断する

直近1年間の求人、応募、面接、内定、入社、90日定着を集計します。社長、現場責任者、若手社員へ聞き取りを行い、会社の強みと候補者へ説明できていない事実を整理します。

この期間の成果物は「採用人物像1枚」「採用ファネル1枚」「最初に直す課題1つ」です。媒体追加はまだ行いません。

31〜60日:施策を実装する

採用人物像に合わせて求人情報を具体化し、写真や社員の声を追加します。応募受付、一次連絡、面接、合否連絡の担当と期限を決めます。同時に、入社初日と90日までの受け入れ表を作ります。

この期間は変更点を記録してください。求人タイトル、写真、条件、応募フォームを同時にすべて変えると、何が影響したか分からなくなります。

61〜90日:数字と声で改善する

経路別の閲覧、応募、面接、内定、入社を比較します。応募者から受けた質問、面接辞退、内定辞退の理由も記録します。数字が良かった施策を残し、弱い工程を次の90日で改善します。

今日行うことは、90日後の日付を決め、採用ファネルを確認する月次ミーティングを予定へ入れることです。

よくある質問(FAQ)

建設会社の採用力は何から改善すべきですか?

最初に直近1年間の採用活動を、求人閲覧、応募、面接、内定、入社、90日定着へ分けて数値化します。候補者が最も離れている段階を特定し、そこから1つずつ改善します。応募が少ないからといって、すぐ媒体を増やす必要はありません。

給与を上げないと採用力は高まりませんか?

給与は重要な条件ですが、それだけで採用力が決まるわけではありません。仕事内容、休日、勤務地、教育、評価、キャリア、現場の雰囲気を具体的に伝え、応募後の対応と入社後の受け入れも整える必要があります。相場と大きく離れている場合は、経営課題として条件の見直しも検討します。

中小建設会社でも採用サイトやSNSは必要ですか?

手段を先に決める必要はありません。採りたい人が何を知りたいか、どこで情報を集めるかを確認し、求人媒体、採用サイト、SNS、紹介、学校連携などから必要な接点を選びます。採用サイトは会社の情報を蓄積する場所、SNSは日常を継続発信する場所というように役割を分けます。

採用力の改善効果はどの数字で判断しますか?

応募数だけでなく、応募率、面接設定率、面接参加率、内定承諾率、入社率、90日定着率を追います。採用経路別に比較し、辞退理由や退職理由などの声も合わせて確認します。数字の定義を途中で変えず、自社の前月・前四半期と比較してください。

まとめ

建設会社の採用力は、採用設計、魅力発信、接点づくり、選考体験、受け入れ・定着の5要素で決まります。求人媒体だけを変えても、別の工程に課題があれば採用は安定しません。

まず直近1年間の採用を、求人閲覧、応募、面接、内定、入社、90日定着へ分けてください。候補者が最も離れている場所を特定し、7つの実践策から必要なものを1つ選びます。

採用力の高い状態とは、毎回必ず採用できることではありません。何が起きているかを数字と候補者の声で確認し、自社で改善を続けられる状態です。最初の90日で、担当者、期限、確認する数字を決めるところから始めてください。

※インタビュー引用は、発言の意味を変えない範囲で重複や口語表現を整えています。